このページは、『南方紀伝』の写本翻刻・校訂本文・異同・判読保留で使用する記号と文章表示を説明する凡例です。
本プロジェクトの第一次判読では、判読不能字を「□」、明治期活字本または前後関係による補読を「〔 〕」で示しました。公開ページでは、これらの記号に加え、「未確定」「可能性あり」「活字本による補読」などの文章によって判断状態を示します。
重要:記号で囲まれた文字や、校訂本文で読みやすく整えた文字を、写本に明瞭に書かれている確定文字と同一視しないでください。
本サイトの各巻に掲載する「写本翻刻」は、すべての文字・改行・字形を機械的に再現した厳密な外交的翻刻ではなく、総合作業台帳に基づく第一次判読の要旨を含みます。そのため、記号だけで表しきれない不確実性は文章でも説明します。
句読点、段落、空白、見出し、西暦、リンク、強調表示、折りたたみ欄は、原写本の記号ではなく、当サイトが閲覧用に加えた編集要素です。
翻刻・校訂記号案内
- 基本記号一覧
- □――判読不能字
- 〔 〕――補読・編集注
- /――異読候補の併記
- 文章で示す判断状態
- 句読点・括弧・改行
- 字体・仮名・数字・日付
- 系譜・和歌・細字・傍書
- 明治期活字本の表示
- 校訂本文の表示
- 現代語訳・史料注記の表示
- 表示例
- 引用するときの注意
基本記号一覧
| 表示 | 意味 | 注意 |
|---|---|---|
| □ | 判読不能の一字 | 字数をおおむね把握できるときは、判読不能字の数に応じて繰り返す |
| □□ | 連続する複数の判読不能字 | 正確な字数も不明な場合は、文章で「数語判読保留」等と説明する |
| 〔文字〕 | 写本だけでは確定しにくく、活字本・前後関係等から補った文字 | 写本にその文字が明瞭にあることを意味しない |
| 〔説明〕 | ページ接続・欠字・本文状態を示す編集注 | 例:〔前partより続く〕、〔日欠〕、〔以下、数語判読保留〕 |
| A/B | 二つ以上の異読候補 | 本文中の原記号ではなく、比較欄・保留欄で候補を並べるための表示 |
| ( ) | 西暦、読み、補足説明等 | 原写本にある括弧とは限らない |
| 「 」 | 発言・引用・和歌等を読みやすく示す | 原写本の鉤括弧を再現したものではない |
| 、。 | 公開用の句読点 | 原写本の句読をそのまま再現したものではない |
この一覧は、本プロジェクトで実際に用いた表示を中心に整理しています。一般的な古文書翻刻のすべての記号を網羅するものではありません。
□――判読不能字
写本画像を拡大し、前後の文字、同筆の字形、明治期活字本を確認しても一字を特定できない場合は、原則として「□」で示します。
- □:判読不能とみられる一字
- □□:判読不能とみられる二字
- 数語判読保留:文字数そのものを確定できない、または長い範囲を記号だけで示しにくい場合
「□」は、その場所に必ず一文字だけ存在すると完全に確定したことを意味しません。紙面の損傷、朱印との重なり、連綿、擦れ、撮影状態などにより、字数にも幅がある場合があります。
文脈上もっとも自然な語が推測できても、字形を確認できないときは、確定文字として入力せず、「□」または補読として残します。
例:「大友□□大夫」のように示した場合、二字の人名・官職部分を現段階で判読できないことを表します。一般的な人物名を推測して無記号で補うものではありません。
〔 〕――補読・編集注
亀甲括弧「〔 〕」は、第一次判読で主に二つの用途に使用しました。
文字・語句の補読
写本の字形だけでは確定しにくいものの、明治期活字本、前後の文章、同じ人物の記事等から有力な読みを補った場合に用います。
小山若犬丸子〔一人〕
この例では、「一人」が写本で無条件に確定したことを示すのではなく、活字本等を手掛かりにした仮校訂であることを示します。
ページ接続・本文状態を示す編集注
原文の一部ではなく、作業者がページの接続や本文状態を説明する場合にも使用しました。
- 〔前partより続く〕
- 〔次ページへ続く〕
- 〔日欠〕
- 〔以下、数語判読保留〕
- 〔系譜線は画像参照〕
括弧内が文章による説明になっている場合は、写本本文の復元文字ではなく編集注です。文字補読と編集注を区別しにくい場合は、周辺の説明や判読保留欄も確認してください。
今後の修正では、補読の根拠が重要な場合、「活字本による補読」「前後関係による補読」「字形からの暫定読み」などを本文周辺または異同欄に明記します。
/――異読候補の併記
斜線「/」は、二つ以上の読みを一方へ確定できない場合に、比較欄・判読保留欄・史料注記で候補を並べるために使用します。
- 夜瀬/瀬谷
- 世谷原/瀬谷原
- 二月四日/二月二十四日
- 成氏敗/成氏勝
「/」は、原写本の行内に斜線が書かれていることを意味しません。また、左側が写本、右側が活字本という固定順序でもありません。どの資料がどの読みを伝えるかは、異同欄の説明で確認してください。
候補を一つに絞れる根拠が得られた場合も、旧読みが重要なら、主要異同または修正記録に残します。
文章で示す判断状態
公開本文は、記号だけでなく次の語句によって判読・校訂の状態を示します。
| 表示 | 意味 |
|---|---|
| 「~と読める」 | 字形・文脈から有力な読みが得られる |
| 「~とみられる」 | 大筋ではその理解が有力だが、逐字確定ではない |
| 「~の可能性がある」 | 候補の一つであり、他の読みを排除できない |
| 「暫定読み」 | 公開上ひとまず用いるが、再確認対象である |
| 「活字本による補読」 | 写本だけでは確定しにくく、活字本を主要な手掛かりにした |
| 「前後関係による補読」 | 前後ページ・前後part・文法上の接続を主要な根拠とした |
| 「未確定」 | 現段階では一つに決めない |
| 「判読保留」 | 文字・語句・人物・日付・主語・記事配置等の再確認が必要 |
| 「仮校訂」 | 校訂本文で暫定的に採用したが、確定本文ではない |
| 「異読候補」 | 写本・活字本または字形上の別の読みがある |
| 「史料上は」 | 史料が伝える内容を示し、史実上の確定事項とは区別する |
「と読める」「可能性がある」などの表現は、断定を避けるための単なる婉曲表現ではなく、判読確度を伝える情報です。引用時に削除すると、確定度が変わって見えるため注意してください。
句読点・括弧・改行
- 句読点:公開時に文意を追いやすくするため加えたものです。
- 段落:年号、事件、主語、和歌等を読みやすく区切った編集上の段落です。
- 空白:人名・官職・日付等の区切りを示すため整理する場合があります。
- 「 」:発言、引用、和歌等を読みやすくするために用います。
- ( ):西暦、読み、語句説明、人物説明等を示します。
- ――:見出し内の区切りや説明上の区切りです。
- 改行:写本の行替えを完全に保存したものとは限りません。
原写本に朱点・合点・返り点・傍線等が見える場合は、必要に応じて文章で説明します。公開用の句読点や括弧と原写本上の符号を混同しません。
字体・仮名・数字・日付
字体
公開用の翻刻・校訂本文では、ウェブ上で読みやすくするため、異体字・旧字体・略字を通行字体に整理する場合があります。ただし、人名、地名、意味、異読に関わる字形は、異同欄または判読保留欄に残します。
使用環境で安定表示しにくい文字は、表示可能な字体へ置き換え、必要に応じて原字の状態を説明します。置換字を原写本の確定字形とはみなしません。
仮名
変体仮名、連綿、送り仮名は、現行の平仮名へ整理する場合があります。和歌や固有名詞で複数の読みがある場合は、活字本を参照しても確定せず、候補または保留として示します。
数字・日付
原文欄では、廿、卅、朔日などの史料上の表記を残す場合があります。現代語訳・案内では、二十、三十、月初め等へ言い換える場合があります。
西暦は読者の便宜のために当サイトが付したものです。写本・活字本の日付が一般的な歴史年表と異なる場合、本文値を無断で修正せず、相違を史料注記で示します。
系譜・和歌・細字・傍書
系譜
系譜は、人物名だけでなく、親子線、同列配置、母方注記、官位、傍書が意味を持ちます。文章化した系譜説明は、写本の平面配置を完全に再現するものではありません。
線の接続を確定できない場合は、人物関係を通常の系図へ推測で整理せず、「系譜線未確定」「画像参照」等と示します。
和歌
和歌は、仮名の連綿、作者名、詞書、句切れが不明瞭な場合があります。読みやすさのため五句に分ける場合もありますが、句切れ・作者が確定していないときはその状態を説明します。
細字・割注・傍書・後筆
本文より小さい文字、行間の書き込み、左右の傍書、後筆とみられる追記は、本文と区別して説明します。本文の一部と確定できない場合、校訂本文へ無条件に組み込みません。
朱印や汚損の下にある文字は、画像処理や文脈だけで断定せず、判読保留として扱います。
明治期活字本の表示
明治期活字本は、写本の補助資料・比較資料として、次のように示します。
- 「活字本は~とする」:活字本が明確に伝える字句・日付・記事
- 「活字本による補読」:写本の判読に活字本を主要な手掛かりとして用いた
- 「活字本のみ」:確認した写本に直接対応する記事が見つからない
- 「写本のみ」:確認した活字本に同じ形で収録されていない
- 「ほぼ一致」:内容の大筋は一致するが、逐字同文を意味しない
- 「記事量・配置が異なる」:省略・追加と断定せず、伝本上の差として記録する
活字本の字句を校訂本文で採用した場合も、それを写本の原字として扱いません。写本値と活字本値が異なるときは、主要異同または判読保留に残します。
校訂本文の表示
校訂本文は、手書き写本を基本に、前後関係と明治期活字本を照合して読みやすく整えた公開用仮本文です。
- 句読点・段落・空白を整える
- 必要に応じて字体・仮名を通行の形へ整理する
- ページをまたぐ文章を接続する
- 有力な補読を示す
- 異読・未確定事項を別欄に残す
校訂本文で無記号になっている文字でも、写本翻刻や判読保留では補読・異読の問題が示されている場合があります。研究利用では、校訂本文だけでなく写本画像・写本翻刻・異同欄を確認してください。
現代語訳・史料注記の表示
現代語訳では、記号をそのまま置き換えるだけでなく、不確実性が意味に影響する場合に文章で示します。
- 「人物名は未確定である」
- 「日付は二つの読みがある」
- 「活字本によれば一人とされる」
- 「写本では主語を確定できない」
- 「史料はこのように伝えるが、史実としては確定しない」
現代語訳で読みやすく主語を補う場合も、原文上の主語が不明瞭なら、史料注記または判読保留でそのことを示します。訳文だけを見て、原文にも同じ主語・因果関係が明記されていると判断しないでください。
表示例
例1――活字本による人数の補読
小山若犬丸子〔一人〕
意味:写本の人数表記は明瞭でなく、活字本を主要な手掛かりに「一人」と仮校訂したものです。「一人」が写本で確定しているという意味ではありません。
例2――ページ接続の編集注
〔前partより続く〕
六月九日 洪水
意味:「前partより続く」は写本本文ではなく、前の作業区分から文章・記事が連続することを示す編集注です。
例3――複数の地名候補
上杉顕房自害地:夜瀬/瀬谷
意味:地名を一方へ確定できないため、二つの候補を保存しています。斜線は原写本の記号ではありません。
例4――日付自体が欠ける場合
二月〔日欠〕 義量生る
意味:月は読めるものの、日付を確定できない、または本文上に日がない状態を示す編集注です。
例5――文字列全体を保留する場合
〔以下、数語判読保留〕
意味:個々の文字を「□□□」と並べても字数・範囲を正確に表せないため、文章で保留範囲を示します。
引用するときの注意
- 「□」「〔 〕」「/」を削除して、確定本文のように引用しない。
- 「可能性あり」「未確定」「活字本による補読」などの確度表示を省略しない。
- 校訂本文を「写本原文」または「原本の逐字翻刻」と表記しない。
- 現代語訳から逆算して、写本に同じ主語・因果関係が明記されているとしない。
- 重要な箇所は、写本画像、明治期活字本画像、主要異同、判読保留をあわせて確認する。
- 公開後に修正される可能性があるため、閲覧日を記録する。
引用例:「小山若犬丸子〔一人〕」(〔一人〕は明治期活字本等による補読)。
このように、補読記号と補読根拠を残すと、引用先でも写本上の確定度が伝わります。